歯周病は、歯周病菌によって口内の歯周組織に炎症を起こす細菌感染です。
また、歯周病菌は、血管を通じて全身に回ったり、炎症性物質をつくり出して体内に悪影響を与えたりすることがあり、場合によってはアルツハイマーの発症や進行にも関与します。
今回は、歯周病とアルツハイマーの関係性について解説します。
アルツハイマーの概要
アルツハイマーは、正式にはアルツハイマー型認知症と呼ばれるものです。
認知症にはさまざまな種類がありますが、一般的に認知症という場合、こちらのアルツハイマーを指すことが多いです。
こちらは、不可逆的な進行性の脳疾患であり、記憶や思考能力がゆっくりと障害され、最終的には日常生活のもっとも単純な作業を行う能力さえも失われる病気です。
また、ほとんどのアルツハイマーの患者さんは、60歳以降に初めて症状が現れ、脳の障害については、症状が出現する10年以上も前から始まっているとされています。
ちなみに、アルツハイマーと診断されてから、死亡するまでの期間はさまざまですが、診断時に患者さんが80歳を超えている場合、その期間はわずか3~4年しかありません。
アルツハイマーを発症する仕組み
アルツハイマーの原因については複数の仮説があり、ハッキリした原因はわかっていません。
そんな中、脳にアミロイドβというタンパク質が蓄積することによって発症するとされる説が2010年に提唱されて以来、もっとも有力な説として注目を集めています。
今日におけるアルツハイマーの新薬開発においても、こちらのアミロイドβ仮説が主流となっています。
通常、アミロイドβは分解され、身体から排出されるのですが、何らかの理由で排出されずに蓄積すると、脳の情報伝達が悪くなり、脳の機能が低下します。
また、こちらが進行すると、タウという異常なタンパク質が溜まり、神経細胞を死滅させます。
こちらが、アミロイドβ仮説におけるアルツハイマー発症の仕組みです。
歯周病がアルツハイマーのリスクを高くする
歯周病を患い、歯周病菌が繁殖すると、カテプシンBという酵素が増加し、これによってアルツハイマーの発症因子であるアミロイドβの受け皿も増加します。
また、受け皿が増加することで、脳内にアミロイドβが蓄積しやすくなり、アルツハイマーの発症、症状悪化を招くことが、九州大学や中国の北京理工大学などの研究チームによって明らかにされています。
こちらの研究は、3週間歯周病菌を直接投与したマウスと、正常なマウスの脳血管や脳細胞に蓄積されたアミロイドβの量を比較するという内容です。
その結果、投与によって歯周病に感染したマウスは、アミロイドβを脳内に運ぶ受容体が脳血管の表面で約2倍に増加し、脳細胞のアミロイドβ蓄積量についても、10倍に増加しました。
咀嚼ができなくなることもアルツハイマーの原因
現代人が歯を失う原因の多くは、歯周病の進行です。
また、歯周病によって歯を失うと、食べ物を咀嚼することができず、噛むことによる脳の活性化が起こりにくくなり、認知機能の低下、アルツハイマーの発症につながる可能性があります。
事実、私たち人間が食べ物を噛むと、その刺激は脳の中心部にある海馬という部位に伝わり、その部分の機能を活性化することがわかっています。
海馬は記憶の司令塔とも呼ばれていて、その部分が刺激されると、記憶力や空間認識機能が向上すると言われています。
中年以降は特に歯周病によるアルツハイマーに注意
先ほども紹介した九州大学らの研究結果では、とても興味深いデータも発表されています。
若いマウスと中年マウスの両方に、歯周病菌の一種であるジンジバリス菌を全身投与したところ、アミロイドβが蓄積したり、アルツハイマーのような症状を発症したりしたのは、中年マウスのみでした。
日本人の成人の約8割は、歯周病に罹患していると言われています。
特に、45歳以上の半数以上は歯周病であり、これくらいの年齢から、アルツハイマー予防として歯周病予防に取り組む必要があります。
歯周病の予防法について
研究結果からもわかるように、歯周病はアルツハイマーの発症、進行に大きく関与します。
歯周病があるからといって、必ずしもアルツハイマーを発症するわけではありませんが、早いうちから歯周病のケアを行い、アミロイドβを産生させないことは重要です。
また、歯周病の予防法としては、やはり毎日の丁寧なブラッシングが挙げられます。
その他、3~6ヶ月に一度は、歯科クリニックでクリーニングをしてもらいましょう。
歯茎の状態の検査してもらえれば、どこに炎症があるかを知ることができますし、適切なケアの指導も受けられます。
まとめ
ここまで、歯周病とアルツハイマーの関係性について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
アルツハイマーは、物忘れなどの軽い症状から、徐々に即時記憶障害、失語、人の見当識障害など、症状が重くなっていく病気であり、根本的な治療法も見つかっていません。
そのため、歯周病予防を行い、少しでも発症のリスクを下げることが大切です。