妊娠中の女性は、身体の内外にさまざまな変化が起こります。
また、ホルモンバランスの変化や免疫力の低下などから、体調を崩してしまうことも多く、口内環境が乱れるケースもよく見られます。
今回は、歯周病の関係の深い“妊娠性エプーリス”という病気について解説したいと思います。
妊娠性エプーリスの概要
妊娠性エプーリスとは、主に妊娠中期に見られる良性の歯肉腫のことをいいます。
後述する妊娠性歯肉炎と比べ、妊婦さんの0.5~1.2%と発症率は低いものの、前歯の歯茎などに好発するため、目立ちやすいという特徴があります。
また、こちらは出産後に自然に治るケースが多いですが、場合によっては出産後も症状が出続けることがあり、このような場合は歯科クリニックでの治療が必要です。
妊娠性歯肉炎と妊娠性エプーリスの違い
妊娠中に発症する口内の病気には、妊娠性歯肉炎というものもあります。
こちらは、多くの場合、妊娠5~20週目ごろから、歯茎の腫れ、出血が見られるようになる病気で、妊娠32週目ごろになると、口臭が伴うこともあります。
妊娠性エプーリスと異なる点は、歯茎がぷっくりと膨らんで腫れるというわけではなく、妊娠性歯肉炎という名称がついているものの、症状そのものは普通の歯肉炎と変わらないという点です。
妊娠性エプーリスと歯周病の関連性
妊娠性エプーリスは、歯の表面に覆い被さるようにできる歯肉腫です。
そのため、発症すると歯と歯茎の間に隙間が広くできてしまいます。
また、歯と歯茎の隙間が広くなると、歯ブラシが当てづらくなり、汚れが溜まることで、歯周病のリスクは高まります。
妊娠中の女性は、女性ホルモンが多く分泌されますが、歯周病の原因菌の中には、こちらの女性ホルモンを好む細菌が存在し、ただでさえ歯周病のリスクが高くなりますが、妊娠性エプーリスは、さらにそのリスクを高めてしまう病気だと言えます。
ちなみに、妊娠性エプーリスから歯周病を発症すると、その影響は母体だけでなく、胎児にも及びます。
妊娠中の女性の体内では、出産の時期が近づくにつれて、プロスタグランジンという物質の分泌量が多くなります。
こちらは、歯周病によっても生み出され、分泌される目的は異なるものの、子宮の圧縮が促進されるという効果があります。
つまり、妊娠性エプーリスから歯周病を発症することにより、早産や低体重児出産など、妊娠時のリスクが高まってしまうということです。
妊娠性エプーリスを発症する仕組み
妊娠中の女性は、エストロゲン、プロゲステロンといった女性ホルモンの分泌量が増加します。
これらのホルモンにより、特定の菌種の発育が促進され、限局性の炎症性腫瘤が発症します。
こちらが妊娠性エプーリスです。
また、妊娠性エプーリスは、プラークや歯石が多いことや、虫歯を発症していること、合っていない詰め物の刺激などによっても、発症することがあります。
妊娠性エプーリスを発症したらどうすれば良い?
妊娠性エプーリスを発見したときには、歯科クリニックに通うまで、清潔に保つように心掛けましょう。
発症部分に関しては、歯茎にダメージを与えないように、歯と歯茎の隙間を意識し、歯ブラシを斜めに当てて磨くようにします。
このとき、デンタルフロスや歯間ブラシなどを使い、歯と歯の隙間も一緒に磨くと効果的です。
悪阻などで歯磨きをするのが辛いという場合は、口内を水で軽くゆすぎ、体調が良い頃合いを見計らって歯を磨きましょう。
妊娠性エプーリスの治療について
妊娠性エプーリスは、出産後に小さくなったり、消失したりするケースもよくあるため、多くは経過観察を行います。
具体的には、自宅で丁寧に歯を磨きながら、歯科クリニックでは歯の清掃(クリーニング、PMTCなど)を行い、プラークや歯石を除去します。
このとき、高さなどが合っていない詰め物があれば、交換することもあります。
また、線維性エプーリスなど、他のエプーリスの多くは切除しますが、妊娠性エプーリスは出産後に治りやすいこと、切除時に大量の出血があることから、基本的に切除は行いません。
妊娠性エプーリスの予防法について
妊娠性エプーリスは、妊娠に伴う女性ホルモンの影響でできてしまうため、予防することは極めて難しいです。
発症率は低いものの、妊娠している方なら誰もが発症し得る腫瘍です。
悪性の腫瘍ではないため、こちらが別の臓器へ移ったり、細菌が広がったりして、臓器や生命に重大な影響を与えるということはありません。
ただし、前述の通り歯周病につながるリスクはあり、歯周病は全身疾患につながることも考えられるため、放置はしないようにしましょう。
まとめ
ここまで、歯周病と関連性の高い妊娠性エプーリスについて解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
妊娠性エプーリスは、残念ながら予防のしようがない病気ですが、発症時のメンテナンスや治療法などについて知っていれば、決して怖い病気ではありません。
もちろん、メンテナンスの方法を知っておくことで、歯周病を併発するリスクも軽減できます。