歯周病は、歯に付着したプラークが直接的な原因となって発症しますが、本当の原因はプラークや歯石の中に含まれている細菌です。
また、こちらの細菌の中には、“レッドコンプレックス”と呼ばれるものが存在します。
今回は、歯周病におけるレッドコンプレックスの概要や種類、特徴などについて解説したいと思います。
レッドコンプレックスの概要
歯周病は、プラークや歯石の細菌感染が原因で引き起こされるものですが、歯周病の原因となる細菌は、数十種類以上存在すると言われていて、1つの細菌の作用によって歯周病が発症することはまずありません。
また、数ある歯周病に関連する細菌の中でも、特に症状の進行を早めるとされているものがあります。
それがレッドコンプレックスです。
細菌については、バイオフィルムピラミッドというものが存在します。
こちらは、歯周病の原因菌について、その出現するタイミングと毒性によって分類したピラミッドであり、さまざまな色で分けられています。
ピラミッドの下の方に位置する、ブルーやパープルに分類される細菌は初期に出現するため、アーリーコロナイザーと呼ばれ、それより上のオレンジ、レッドコンプレックスが該当するレッドの部分は、アーリーコロナイザーが成熟した後に出現することから、レイトコロナイザーと呼ばれています。
また、レッドコンプレックスとは、具体的には、以下の3種類の細菌のことを指し、これらが揃うと歯周病は著しく進行しやすくなります。
・P.g菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス)
・T.f菌(タネレラ・フォーサイシア)
・T.d菌(トレポネーマ・デンティコーラ)
P.g菌(ポルフィロモナス・ジンジバリス)
P.g菌は、慢性歯周炎の原因菌であり、付着する能力が高いのが特徴です。
また、骨を溶かす作用があるだけでなく、口腔内で悪臭を放ち、口臭が悪化する原因にもなります。
T.f菌(タネレラ・フォーサイシア)
T.f菌は、歯茎の破壊の激しい部分、深部で活動性が高い病巣で見られることが多いです。
通常の治療では、治りにくい歯周病に見られます。
T.d菌(トレポネーマ・デンティコーラ)
T.d菌は、歯周ポケット内部に多く見られる細菌です。
歯茎の中の細胞から血管内に入り込み、歯茎周りの組織を破壊して、免疫機能を低下させる作用があります。
レッドコンプレックスにおける共通の特徴
レッドコンプレックスに該当する上記の細菌は、消化酵素であるトリプシンによく似たトリプシン様酵素と呼ばれる酵素を分泌します。
つまり、レッドコンプレックスが口内に存在することで、消化酵素によって歯茎の細胞が分解されていき、歯周病が悪化するということです。
もっとも危険な細菌は?
レッドコンプレックスの中でも、特に歯周病にとって病原性の強い細菌は、P.g菌です。
P.g菌は、歯周ポケットが健康なときは低病原性ですが、歯茎の状態が悪くなり、歯周ポケットに出血が見られるようになると、赤血球の鉄分とタンパク質を栄養素として、急に高病原性になります。
そして、侵襲性といわれる骨をどんどん溶かす歯周病に進行していきます。
歯周病とP.g菌に関する最近の考え方
前述の通り、歯周病はP.g菌を代表とするレッドコンプレックスによる細菌感染症だと言えますが、近年はこちらの考え方が少し変わりつつあります。
近年の研究により、P.g菌には免疫を抑制する働きがあることがわかってきました。
健康な状態であれば、私たちの口内は常在菌がバランスの良い状態で保たれています。
しかし、口内でP.g菌が増えると、身体の免疫バランスが崩れます。
その結果、歯周病に関連する他の細菌が増えることで、歯周病が進行すると考えられるようになってきました。
つまり、P.g菌によって宿主の防御機能が低下することで、他の常在菌の数や組成に変化が生じ、それによって歯周病が発症、進行するということです。
レッドコンプレックスの繁殖を防ぐ方法
レッドコンプレックスは、いずれも酸素の少ない環境を好みます。
歯周病によって形成される深い歯周ポケットは、まさに酸素の少ない場所であり、温床になりやすいです。
一方、口内の衛生状態が良かったり、歯周病の症状をしっかりと管理できていたりすると、歯周ポケットの深さも改善できることから、レッドコンプレックスが住みにくい環境を形成できます。
また、そのためには、日々のブラッシングをはじめとするオーラルケアを徹底するだけでなく、歯科クリニックでのプロフェッショナルケアを受けることが大切です。
レッドコンプレックスを含む細菌が多く存在する歯石は、自宅でのブラッシングでは除去することができません。
まとめ
ここまで、歯周病におけるレッドコンプレックスについて詳しく解説しましたが、いかがでしたでしょうか?
歯周組織がレッドコンプレックスの餌食になると、瞬く間に症状は進行し、気付いたときには手の施しようがなくなっている可能性もあります。
そのため、歯周病とおぼしき症状が出る前から、セルフケア、プロフェッショナルケアを含む歯周病予防を行うことをおすすめします。