歯周病は、歯や歯茎、その下の骨を蝕む病気として有名ですが、さまざまな全身疾患との関りも持っています。
また、その中には、命の危険につながるような疾患もあり、その一つが心筋梗塞です。
ここからは、歯周病が心筋梗塞のリスクを高めるとされている理由を中心に解説したいと思います。
心筋梗塞の概要
心筋梗塞は、心臓を動かす心筋に血液が届かなくなり、激しい胸の痛みなどに襲われる病気です。
類似した病気の狭心症とあわせ、虚血性心疾患と呼ばれています。
虚血性とは、血が足りないということを意味しています。
具体的には、心臓に酸素と栄養分を運ぶ冠動脈が詰まって血液が流れなくなり、心筋が死んでしまう病気で、冠動脈は、心臓を出てすぐのところにある大動脈から枝分かれし、心臓の木の枝の冠をすっぽり被せたような形で走っています。
また、冠動脈には、右冠状動脈、左前下行枝、左回旋枝の3本があり、心筋が動くには、これら3本の冠動脈を通して酸素と栄養分を得なければならないのですが、詰まった先にある心筋は、酸素も栄養分も届かず、壊死します。
ちなみに、壊死した心筋は再生せず、そのままの状態だと、心臓から十分な血液が全身に送り出せないため、迅速に治療しなければ死に至るおそれがあります。
歯周病が心筋梗塞のリスクを高める理由
心筋梗塞は、動脈硬化が進んだ中高年の方に多く見られ、高血圧や糖尿病、高コレステロール血症、肥満、喫煙、運動不足、ストレスなどが危険要因に挙げられていますが、最近では重度の歯周病にかかっていると、心筋梗塞のリスクが高まるという研究結果が報告されています。
死後に解剖した結果、心臓の血管内から、本来あるはずのない歯周病菌が発見され、歯周病が原因の心筋梗塞が見つかったケースもあります。
歯周病と心筋梗塞は、一見まったく関係がないように思えますが、歯周病が進行すると、歯周病菌の一部が口腔内の傷から血液中に入り込み、血管壁を傷付けたり、血小板に異常をきたして、血栓ができやすくなったりすることがわかっています。
歯周病が心筋梗塞を起こすまでのプロセス
歯周病が心筋梗塞につながる仕組みについて、もう少し具体的に解説しましょう。
歯周病菌が増えると、身体は菌が体内に侵入するのを阻止するために、免疫反応を起こします。
しかし、治療せずに放置すると、歯周病菌は歯茎の毛細血管から血行に乗って、全身に回ります。
また、血行に乗って侵入した歯周病菌は、心臓血管に棲みつき、そこでアテローム性プラークを形成します。
こちらのプラークの中で、歯周病菌は血管壁の炎症を悪化させたり、血管壁の細胞を増殖させ、より血管を狭めたりといった悪さをします。
アテローム性プラークは粥状の体積物であり、歯周病菌はそこで体積物形成を促進し、ジワジワと血管を狭めていきます。
その結果、心臓の冠動脈の血行が滞ると、心臓に酸素や栄養分が行き渡らなくなり、心筋がダメージを受け、心筋梗塞や狭心症になるという仕組みです。
歯周病の男性は心筋梗塞のリスクが2倍に?
東京大学大学院医学系研究科の研究員は、歯周病と心筋梗塞に関する興味深いデータを発表しています。
こちらは、金融保険系企業の36~59歳の男性労働者3,081人を対象に、質問票を用いて歯周の状態を評価した上で、その後5年間の対象者の健康状態を追跡調査したものです。
その結果、歯肉出血、歯のぐらつき、口臭の3項目から、歯周病を強く疑われる男性労働者は、そうでない方と比べて、心筋梗塞の発症リスクが約2倍高いことを明らかにしました。
歯周病は、40代以降の日本人男性において頻度の高い疾患である一方、適切なセルフケアやプロフェッショナルケアで予防、改善できるため、こちらのデータは虚血性心疾患の新しい予防法につながる可能性があるとして、注目を集めました。
歯周病は感染性心内膜炎のリスクも高める
血液によって運ばれた細菌が、心臓の内側の膜(心内膜)や弁膜に感染し、炎症を起こすことがあります。
こちらは、感染性心内膜炎という病気であり、発熱や心雑音、皮膚や白目の点状出血、関節痛、筋肉痛など、さまざまな症状につながります。
また、歯周病菌は、感染性心内膜炎を引き起こす細菌の一つと考えられています。
感染性心内膜炎は、それほど症例が多い病気ではありませんが、合併症を起こし、命を落とすこともあります。
特に、心臓弁膜症や、先天性の心臓病がある方などは、発症のリスクが高まるため、口内を清潔に保ち、歯周病を予防することが大切です。
ただし、乱暴にブラッシングをするのは逆効果です。
このようなブラッシングをすると、歯茎が傷つき、傷口から歯周病菌が血液中に侵入しやすくなります。
まとめ
ここまで、歯周病に潜む心筋梗塞のリスクを中心に解説してきましたが、いかがでしたでしょうか?
心筋梗塞は、日本人の死因の第2位に挙げられる、代表的な心臓疾患です。
また、歯周病を患っている方は、ただでさえ症例数が多いこちらの病気にかかりやすいため、毎日意識してセルフケア、プロフェッショナルケアを行うことが大切です。